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大阪高等裁判所 昭和43年(く)78号 決定 1969年1月30日

少年 W・G(昭二四・二・六生)

主文

原決定を取り消す。

本件を京都家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、附添人津田雄三郎作成の抗告申立書に記載のとおりであつて、要するに原決定は処分が著しく不当であるから取り消すべきであるというのである。

よつて、少年保護事件記録および少年調査記録ならびに受命裁判官の事実取調の結果を検討すると、本件道路交通法違反の非行の内容は、少年が昭和四三年八月○○日午後八時頃、大阪府高槻市○○名神高速道路上り線において、最高速度八〇キロメートル毎時と定めているのに、速度制限標識を見落した過失により制限速度を一〇〇キロメートル毎時と考え、一二九キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転したという速度違反の事実と、昭和四三年九月○日午後七時一〇分頃、公安委員会により駐車禁止場所と定められた京都市北区紫明通烏丸東入道路において普通乗用自動車を駐車させたとの駐車違反の事実であつて、少年は、過去に無免許運転一回、速度違反二回の道路交通法違反の前歴があり、そのうち二回は罰金刑に、一回は原裁判所で不処分となつて講習を受けたことがあるほかに、原裁判所で昭和四〇年五月二〇日に恐喝等保護事件により審判不開始決定、本件速度違反より約一ヵ月前に犯した数名共謀による強姦保護事件により原裁判所で昭和四三年一〇月一日に保護観察決定を受けたことがあり、右の非行歴、ことに三回にわたる道路交通法違反による検挙を受けながら、さらに同種違反をくりかえすという法軽視の態度は結局その性格にも問題があることがうかがわれ、保護者である父母も少年を甘やかして育て、父母の間も従来とかく不和で、本件当時まで約二年二ヵ月余の長期間別居するなど、少年の指導監督に欠けるところのあつたことが認められるから、少年に対してはなんらかの保護処分の下に置く必要があると考えられる。しかし、少年は、本件非行の約一ヵ月後に、本件前に犯した強姦事件によりすでに保護観察処分に付されていて、本件はいわば右強姦事件の余罪の関係にあり(原決定は右保護観察処分のあつた日を昭和四三年八月○日と認定しているが、右日時は強姦の犯行日時であり、保護観察処分のあつたのは同年一〇月一日であるから、右の認定は誤つている)、原決定当時は、保護観察機関による観察も開始されて間もない頃であり、観察開始後遵守事項を守つてこれに違反することがなく、義兄の営む写真製版業の製版工として働いていたものであつて、少年自身も少年鑑別所、少年院での収容生活により自覚反省し、適応意図を示しており、他方保護者である父母も本件非行直後頃から和解して同居し、これまでの少年に対する安易な態度を反省し、自動車も他に譲渡して、少年に対する監督を誓い、少年の義兄らも少年の更生について協力を誓つていることなどを考慮すると、本件非行の故をもつて、直ちに、その後になされた前記保護観察処分以上に強い収容保護処分に付することは相当ではなく、右保護観察処分による保護観察機関等の補導によつて在宅のまま更生を期待できないものでもないと考えられるし、また少年の法遵守の意識の矯正には、それをもつて足りると認められる。したがつて、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は重きに過ぎ著しく不当であるから、取消を免れない。論旨は理由がある。

よつて、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により原決定を取り消して、本件を原裁判所である京都家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山崎薫 裁判官 尾鼻輝次 裁判官 大政正一)

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